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第9話 愛のままにわがままに

3月 17th, 2012 Posted in 題名の無い連載小説

DDC(大黒島データセンター)の片隅で、三郎は一人ニヤニヤしながら、なにやら図面を書いて設計している。

毎日毎日同じ作業の繰り返しで、給料は高いが「やる気」が全くでない仕事だったが、なにやら仕事以外で楽しむための企みはじめたようだ。
三郎はDDCに軟禁状態であるため、外にはでれない(だってそれが仕事だから)。
DDC内の物置には万が一機器が故障したときの交換用として、サーバやらモニタやらルータやらIT機器が大量に保管されており、これに三郎は目をつけた。
「これを使って1個システムを作ってやるもんねー♪ だってDDCの機器って絶対壊れないもんねー♪」

三郎はパンドラプラスの基幹を支える超超ハイスペックなサーバ予備機を使って、インターネットし放題&メールし放題で会社にバレない環境を作る気だ。
(どんだけ短絡的でどんだけしょぼい企みなんだか・・・)
この時の三郎の頭は所詮エ○サイト見放題で、SNSでもやって見ず知らずの人に愚痴を聞いてもらいたい。そんな程度だったが
この環境から、世間が驚愕するトンデモナイものが生まれるなんてことは、このときの三郎は知る由も無い。

「よし・・・できた!」
半日でDDC内に独立したネットワーク環境を構築する設計書が完成した。
やる気が無いと何もしない三郎だが、やる気になれば仕事は早い。
「さてと・・・あとは実際に構築する作業をどうするかだ・・・めんどくせぇな。誰かやってくれる奴いないかな・・・」
三郎が考えるアイデアは素晴らしいのだが、それを形にする力というか技術が無い。
愛帝を作ったときもそう。イメージを伝えテキパキ指示を出して大量の人を動かすことで、三郎本人はプログラムを書いたりケーブルを引っ張ったり、配線工事をすることなく「結果」を出してきた。

完成した設計書を前に、「誰か作ってくれる人いないかなぁ」と蹲る三郎。
(自分でやりゃいいじゃん?というツッコミは三郎の脳内で何度も繰り返されているが、それでも自分でやりたくないのである)

「あ!あいつだ!!名前なんて言ったっけ?新人の・・・日本人なのに外国っぽい名前の・・・チャーシューみたいな名前だったような・・・ そうだ!チャーリーだ!!あいつエビアンのところだったよな」

DDC内に1つしかない電話(内線)を取り、さっそく蝦安のいるメールサービス事業部へと電話をかけた。

室「あーもしもし?エビアン・・・じゃなくって本部長います?」
蝦「私ですが・・・どなたですか?」
室「おー!俺俺!オレオレ詐欺じゃなくって、室井だよ。エビアン元気??」
蝦「室さん!?いやーおひさしぶりっす!・・っていうか、そこから電話して大丈夫?外部と連絡とるの禁止されてるんじゃ・・・」
室「あーそうそう。軟禁されてるからね・・・。いいのいいの用件はすぐ終わるからさ」
蝦「で、なんすか?」
室「おう!こないだ配属されたチャーリー君を半日貸して欲しいのよ」
蝦「えぇーーー。いま彼は”もういいからさ(スパム慰撫システム)”で手一杯だから無理っすよ」
室「まぁいいからさ。こないだDDCに見学しに来たときに忘れ物があるから取りに行けって言ってくれればいいのよ」
蝦「んーーーーしょうがないなぁ・・・そこまで言う室さんの頼みは断れないよなぁ」
室「おっけー!ほんじゃぁ交渉成立ってことで♪」
蝦「半日以上は無理ですからね!頼んますよ!」
室「だいじょぶだいじょぶ!こっちの件が片付いたらそのうち、彼とエビアンに飯ごちそうするよ」
蝦「遠慮なくガッツリご馳走してもらいますからね!」
室「あいよー」

受話器を置いた蝦安は頭を抱えこむように顔を伏せて、肩を震わせて必死に笑いをこらえてた。
あの一件から腐ってしまったかと思ったけど、室さん、なんにも変わってねーじゃねーか!

蝦「おーい!チャーリー!!忘れ物だってよ。今日の昼からDDCに取り行ってきてくれー」
チャ「忘れ物なんかしてませんよ?っていうかDDCまで行ってる暇ありませんけど?」
蝦「いいからいいから。行けばわかるから、詳しくは室さんから聞いてくれ」
チャ「んーいいんすかね・・・」
蝦「気分転換だと思って行って来いよ。今日は直帰でいいから、明日からまた仕事宜しく頼むぞ」
チャ「んー わかりました・・・」

このクソ忙しいときにヤボ用を頼まれて、ちょっとイラっとしながらチャーリーは席を立つ。
DDCに行けばわかると言われたが、何があるのか・・・
会社を出てタクシーを拾い運転手に「大黒島まで」と伝えると・・・
「お客さーん。冗談キツイよー。大黒島は離れ小島だよ?」と運転手から苦笑される。

あ・・・そうだった。
こないだ見学しにいったときは、右も左もわからず案内されたから、どうやってデータセンターへ入っていいか覚えてない・・・
とりあえず、絵鞆漁港でタクシーを降りて、入口を探すことにした。

ATHLETAのジャージを着た若者を発見。
漁業関係者とは思えない格好だったが、船の掃除をしているところをみると、やはり関係者なのか。
キラキラと光る汗をかいている彼を見て、チャーリーは話しかける。

これがチャーリーと害吾(がいあ)の初めての出会いだった。

チャ「あのーすいません。私、パンドラプラスの者ですが、大黒島に行きたいんですけど」
害吾「ん?見かけない顔だね。」
チャ「最近、配属されたばかりの等儘(らまま)と申します」
害吾「ん?らまま?随分変わった名前だね」
チャ「はい。みんなからはチャーリーと呼ばれてます」
害吾「へー。俺は害吾(がいあ)っていうんだ。よろしくね」
チャ「ガイアさんですか。あなたも変わった名前ですね」
害吾「親父がちょっと変なヤツでね。まぁこの名前のおかげでいろいろ得してきたさ」
チャ「そうですか・・・っていうか、すいません。大黒島に行きたいんですけど・・・」
害吾「誰に会いに行くの?」
チャ「大黒島に居る室井って人に呼ばれまして」
害吾「室井!?もしかして三郎さんのこと!?」
チャ「あ、はい。」
害吾「おぉ!やっと三郎さんに会いに行く人に出会えた!」
チャ「???」

害吾は、サンパウロで出会った室井二郎の話(ラーメン屋を貰う)を聞いてすぐに帰国していた。
二郎のラーメン屋を引き継ぐにあたって、三郎と直接会って許可を貰おうと室蘭まで来ていたのだ。
しかし、三郎が大黒島にいることを聞いたが、もちろん関係者以外は立ち入り禁止。
大黒島と室蘭を繋ぐのは船しかないため、害吾は絵鞆漁港に張り付いて三郎と接触できる機会を
待っていたのだが、いつまでたっても三郎は外にでてこない。
数日経っても出てこないので、船清掃のアルバイトをしながら三郎にあえるチャンスをひたすら待っていたのだった。

そしてやっと三郎とコンタクトが取れる人(チャーリー)に会えて、害吾はテンションが上がったわけである。
害吾「三郎さんに会ったら”二郎さんの話を伝えに来た人が絵鞆漁港にいる”と伝えてくれるかい?」
チャ「いいですけど・・・。あなたは何者なんですか?」
害吾「三郎さんのお兄さんの友達さ。これからラーメン屋をやろうと思ってるのさ」
チャ「そうですか・・・。で・・・どうやって大黒島に行けば・・・?」
害吾「あ、ゴメンゴメン。あそこに泊まってる船に乗ればすぐ連れてってくれるよ」
チャ「あ~。ありがとうございます!」
害吾「三郎さんに伝言頼むぞ!」
チャ「わかりましたよ」

なんだったんだ?あの人・・・。伝言は伝えるけど、余計な事に巻き込むのは勘弁してよ・・・
室井さんも、蝦安さんも、さっきの害吾さんも、好き勝手言いやがって、なんだんだよ。
俺はパシリかよ!?

チャーリーは、イラっとしながら大黒島行きのパンドラプラス専用船に乗り込んだ。
漁港で嬉しそうに手を振って大きな声で「たのんだぞー」と叫ぶ害吾を見てまたイラっとしていた。

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