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第3話

7月 22nd, 2010 Posted in 題名の無い連載小説

きーきききき・・・・

売れない作家、手動米乃舞(でどうまいのぶ)は、奇妙な笑い声をだしながら
書きかけの小説の続きを考えていた。

「さて、どうしよっか。普通の生活に満たされない室井三郎の人生・・・そのまま普通に
終わらせたって何にも面白くないもんな。 ここは1つ何か変化でもあたえてやれば、
ヨダレ垂らして飛びつきそうだな。よしそうしよう。  きーきききき・・・・」

手動の思考時間はキッチリ5分だった。
その後、手動は筆をとり、一心不乱に物語の続きを書き始めた。

┏━━━━━━━━━━ 室井三郎の1日 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━

室井三郎の勤め先は、いわゆるIT企業である。
職場内はサバサバしていて、とくに会話もなく作業指示も、上司の愚痴も全てメールで
やりとりしている。三郎の口から発する言葉が、朝の「おはようございまーす」と
業務終了後の「おさきにしつれいしーます」だけ、という日も少なくない。

そんな冷めた職場にある唯一のオアシスが喫煙所。
三郎は1時間に一回、暇なときは30分に一回、必ず喫煙所にいって「ふぅ~」と
煙草の煙を吸いながら大きく深呼吸する。それくらい職場は息苦しいのだ。

今日は取引先からの連絡待ちで特にやることもなく、いつものように喫煙所にきて
「なんかいいことないかなぁ」と、つぶやく。
日々の生活の中でいいことはまったくないが、せめてもの救いが食べることだった。
美味しいものを食べるとその瞬間、三郎の心はとても満たされるのである。

「よし!今日の晩飯はラーメンにしよう!」と、好みの店を頭のなかでリストアップする。
今日の気分にあった店を絞り込み「よし!今日はこってり味噌ラーメンに決定!」
とテンションがあがったところで、携帯電話が鳴った。

長男の一郎からの電話だった。

「こんな日中に何の用だ?」三郎は嫌な予感がしながら電話を取る。
『三郎、すまない。こんな時間に・・・』一郎の声のトーンが低い。嫌な予感が一気に高まる。
三郎は最近体調があまりよくない父親に何かあったと思い、兄貴の言葉をさえぎるように
「どうした!?オヤジに何かあったのか!!!」
と声を荒げて問いただした。

・・・10分後・・・

一郎との電話を終えた三郎は、5本目の煙草に火をつけながら笑っていた。

何のことは無い。一郎からの連絡はこういうことだった。
  小さなラーメン屋を経営している次男の二郎が、ラーメンで稼いだ金で世界旅行に行くから
  二郎が帰ってくるまで、三郎に店を任せたいと言ってるのだが、やる気は無いか?
という打診だった。

二郎は自由奔放で、親の反対を押し切って高校を中退し、オレオレ詐欺のバイトで稼いだ金で
ラーメン屋をはじめて、これが大繁盛。 そう。あの関東圏で超有名な”ラーメン二郎”のことである。
二郎としてはノリで始めた商売だったので、店が繁盛すればするほど、やる気がなくなり、
ついに店を飛び出して世界旅行に出てしまったそうだ・・・

二郎が成田空港の出発ロビーで一郎に残した言葉は
「店は潰すなり引き継ぐなり好きにしていいよ。あ、三郎にくれてやってもいいわ。じゃーね!」
とのこと。 どれだけ自由人なんだろうか。

一郎の話を頭の中で反芻しながら、三郎の笑いは止まらない。
「ラーメン屋!この俺がラーメン屋になれるの??」

三郎は無類のラーメン好きだった。二郎がノリでラーメン屋を始めたときは、激しい嫉妬と
羨望の眼差しで「いいなぁ」と、自分にはできないことをサラっとやってのける兄貴を尊敬していた。
こんなに手っ取り早くラーメン屋になれるだなんて、三郎にとっては願ったり叶ったりの
朗報だった。

7本目の煙草に火をつけて、ヤニで黄色くなった天井を仰ぎ、
三郎は自分が作るラーメンをイメージしている。

いつもの「なにかいいことないかな・・・」という口癖は出なくなっていた。

┗━━━━━━━━━━ 室井三郎の1日(完) ━━━━━━━━━━━━━━━━

 

きーきききき・・・・

「しっかし、三郎ってのはホント単純な奴だな。
 ラーメン好きな奴が、ラーメン屋を始めるってベタな流れ・・・展開が速すぎたかな?」
手動は筆を止めて、しばし悩む。
「まぁ、いっか・・・」 5分経過したようだ。

「あ・・・そういや、三郎のキャラ的に今勤めてる会社辞めれるのかな?」
手動は発泡酒を口に運び、しばし悩む。
「まぁ、いっか・・・俺が書いてる話しだもん。どうにでもなるか」  5分経過したようだ。

きーきききき・・・・
不敵な笑みを浮かべ、右手に筆、左手に発泡酒を握りながら
売れない作家 手動米乃舞(でどうまいのぶ) は深い眠りついた。

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