第7話 大黒島の中心で愛を叫ぶ
「はぁ・・・なんかいいことないかなぁ・・・」
室井三郎は巨大なデータセンターの中でいつもの口癖(独り言)をブツブツ呟いている。
誰にも知られていないが、巨大なデータセンターは大黒島にある。
室蘭港の灯台として室蘭港に光をてらしていた大黒島はその機能を地球岬に譲って以来、何十年も無人島となっていたが、そこに目をつけたのがパンドラプラスの社長(山登下子)である。
「ねぇ、渡辺。室蘭の大黒島って幾らで買えるのかしら?すぐに買ってあそこウチの会社のデータセンターにするわ。室蘭って何故か天災が少ないから災害対策には一番良い場所だと思うのよ。近くの製鉄所と製鋼所と製油所と協働で巨大核シェルター級の大型施設を大黒島の地下(海中)に建設してちょうだい。そのうち他社のデータもおけるようにして、BCPビジネスで小銭(数億)を稼ぐわ」
まったく根拠の無いビジネスと思われるが、山登が「やる」と言って失敗した事は無い。山登の一声で、秘書の渡辺は迷うことなく動き出した。室蘭の企業に金をばら撒き、データセンター建設はすぐに着工。三郎が愛帝BOX構築のために走り回っていた1年半の間に、「パンドラプラス大黒島データセンター」は完成していた。
三郎が構築した愛帝BOXのパフォーマンスを250%発揮できる磐石なインフラとして、完璧なタイミングで完成したデータセンターだったが、どこぞの下請け会社が良かれと思って設置した空調システムはあまりにも素晴らしくて、データセンター内の温度は常に5℃をキープするよう設計されていた。所謂巨大な冷蔵庫という状態。サーバー等の情報機器には非常に快適だが、人間が中で作業をするには過酷な施設だった。
残すはここの管理人を誰にしようかと、秘書の渡辺が人選をしていたときに、幸か不幸か絶妙なタイミングで室井三郎の不祥事が発覚。
次期社長とも言われたパンドラプラスの若きホープ&愛帝BOXの功労者への温情処分として、室井はデータセンターの管理人に任命されたのである。
「
おぉ・・・さぶ(寒)っ!
ったく、パンプラ(パンドラプラス)がここまでデカくなったのは誰のお陰だよ・・・
あの頃俺がアゴで使っていた渡(ワタリ)兄弟から、アゴで使われるようになるとは・・・
はぁ・・・あの頃はよかったな・・・
蝦安(エビアン)たちは元気にやってるのかなぁ。あいつらと一緒に小便に血が混じるくらい集中していた頃は、何かにとりつかれていたくらいギラギラしていたもんな・・・
」
愛帝BOXの構築をしていたころのギラギラしていた眼光の鋭さはもうない。
過去の栄光を思い返し、独り言をつぶやきながら、クソ寒いデータセンターの中で毎日サーバ機器のランプの色を確認し、稼動状況と異常の有無を見て回っている。完璧すぎる施設ゆえ、異常が起きることは万に一つ無いのだが、「絶対に落ちないシステム」のエビデンス(証拠)のためだけに、三郎は毎日チェックし報告書(「異常なし」)を書くだけ。こんなにつまらない仕事は三郎にとって苦痛以外の何物でもない。
三郎がこんな労働を強いられても会社を辞めない理由は、「金」。
基本給は大幅に下げられたものの、「遠隔地手当」「寒冷地手当」「単純労働手当」「そこに居れば良い手当」「孤独に耐える手当」「上司に文句言わない手当」「休暇取れない手当」等など、各種手当を総合すると給料は手取りで80万となっている。これが、愛溢れるパンドラプラスの温情処分の実態であった。
「もう豪邸も建てちゃったし、いつでも辞めてもいいんだけどなぁ。これだけもらえるなら居てやってもいいか・・・」
こんなつまらないデータセンターの保守をやらされながらも、三郎は社長の山登に感謝している。
いつの日か山登がこのデータセンターを視察に来るとき(一生来ないかもしれないが)があれば、感謝の気持ちと「やってらんねぇっす!」という愚痴をぶつけて、ここから抜け出すチャンスをうかがっているのである。
「よーし本日も異常なし!っと・・・」
1日の仕事が終わった三郎は、いつものように暇つぶしするためのワンセグTVのスイッチを入れると人気番組「スポーツ王子は俺様だ」の再放送がやっていた。
ちょうどゴルフのコーナーでゲスト出演している石川量の横に並んでいる年増な女性を見て目を疑う。
「え?何??これ・・・社長!?」
何を思ったかパンドラプラスを渡辺に任せて、プロゴルファーに転向した山登下子が、眩しいくらいのピンクのウェア(パンドラプラスのロゴ入)を着て、石川量をコテンパンに打ちのめしていた。
山登がガッツポーズを決めてカメラに背を向けた瞬間、大きな”愛”の字がプリントされていた。
「ははは!プロゴルファーになったんだ。社長らしいや。
パンプラのロゴを付けてるってことは、退任したんじゃなくって、また何か企んでるクチだな!
ったく、いちいちカッコ良すぎるぜ!!」
三郎はサーバの影からキンキンに冷えた発泡酒を取り出し、プシュっと蓋を開けテレビ画面にいる山登に向かって乾杯した。よくよく見ると番組のスポンサーはパンドラプラスだったこともわかり、これまた三郎にはツボだった。
勤務中でありながらも(誰も人が来ないからバレることも無いわけで)発泡酒を3本空けて、気分上々の三郎の目つきに変化が・・・
「よっしゃ!俺もやるぜ!!
パンドラプラスの「愛」。俺流の”愛”をこの要塞から発信してやる!」
腐った魚みたいな三郎の目に光が灯っていた。ギラギラしていた頃の目である。
社長の映像をみて何か強烈な刺激を受け、何かいいことを考えついたようだ。
============手動米乃舞==================
きーききき・・・
忘れてた7話が書けたぞー♪ 寝る前の5分で書けるのはココまでかな。
なかなか面白くなってきたな。
きっきっき・・・
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