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第十回 【混沌・・・】

3月 24th, 2012 Posted in 題名の無い連載小説 Tags:

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超暗黒国が襲来
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渡辺が自社のタブレット・・・ではなく、敵対関係にある”bv”(bvはブランド名、社名はLEEH)の
最新タブレットをぼんやり眺めてたらツィートが呟いた。
「おーい、下子様はその後どこ行っちゃったんだよー!お、それよりこんな記事が出てるぞ。大変だなー。じゃあな!」

なんて軽い・・・
これでもパンドラプラスでは五指に入ると言われるキレ者、営業統括本部長の日本軸(ひのもとじく)である。
周囲からは「にほんシャフト」と愛称で呼ばれているなかなか人望のある経営陣の一人だ。

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超暗黒国の複数の都市で当局が家電店などに対し、日本パンドラプラスのタブレット型端末「愛・・・」の販売停止を命じた。
愛・・・の商標権を所有していると言い掛かりをつける超暗黒国企業の訴えを受けた措置。XX日付の国民一報が報じた。

それによると、xxxを拠点とするパラポロプニペパ社は当局に対し、商標心外(侵害じゃないからね)のように感じたから、
という「感覚」だけを理由に真夏州のほうれん荘など複数の都市で愛・・・の撤去を要請した。らしい。

同報道の内容については、まだ誰もどこのコメントもとれておらずそもそもこの報道もガセなんじゃないか。

現地紙の真夏都市伝説が昨年報じたところでは、パラポロプニペパ社は愛。。。の商標について、
西暦645年には超暗黒国を含む複数の国で正式に登録済みだ、と言い掛かりをつけているという。

また、パラポロプニペパ社はパンドラプラス社に対し、商標権心外(侵害じゃないからね)で1京黒(10万黒=約1円)の
損害賠償を求める訴訟を起こすからな!と報じていた。
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ううむ・・・・渡辺は眉間にしわを寄せて唸った。
「ったく、かったりー野郎どもだ、何なんだこいつらは。」
下子さまのいない時に、こりゃまた困ったもんだなー。とほほ
などと呟いたような呟いてないような。

それにしても始球式は素晴らしかった。下子さまは140km後半のストレートをアウトローにびしっと決めた。
いやはや恐るべし。壮観だった。
スタジアムはどよめき、横で見ていたプロの先発ピッチャーの、あのばつの悪そうな顔と言ったら・・・・

 

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人口減少社会の到来を見据えて
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室蘭はまだ全然良い方なんだろう・・・そお思う。
各地の過疎化はものすごい勢いだと言う。だまっていても20XX年代には8000万人にまで減るこの日本が、
みな何を思ったか、あちこちの国への移住が進んでいるのだ言う。
移住だけではなく、失踪者が激増して身元不明者の数は4000万人にのぼるそうだ。(ほぼ半分かい!)
つまり、今この国で身元が明確で且つこの国土で生活している”はず”、の人は、6500万人・・・ってか。
すげー。
室井はそお思う。凄過ぎる。もう一度そお思う。いや何度でも思うし思わざるを得ない。
だってだってだって。だって減り過ぎでしょ。

ううむ・・・なんてこったい。室井は煩悶する。
パンドラプラスのデータセンター世話人として、地味ながらもあと25年も勤めたら無事に退職金ももらえて・・・
ん?もらえるの?ほんとに?なんで?その保証は?
本当にそれまでこの会社ってあるの?ほんとか?誰がそれを保証してくれる?

とか何とか煩悶を繰り返しつつ、相変わらずデータセンターの地下深くで発泡酒を呑んでいた。

室井はふと決心する。
こんな人口減少に歯止めをかけるには至らずとも、俺の生きてる間はもっとがっつり楽しんでやるさ、
でもそのためには・・・俺は本当に寂しがり屋だもん・・・周囲の人がそれなりに居てくれなきゃ。
せめて、せめて室蘭くらいは活気づいててほしいじゃん。

というわけで
「市長にでもなっちまうか・・・うん。決まった。んあー」
新たな進路はそうして決まった。

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社会保障制度大改革の嵐
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現政権の蜂山内閣がぶちあげた「保険料と税を無駄にはしません」計画の施策が着々と進展している。

 年金保険料負担者は、それが誰(年金受給者)に紐づいていて、
どんな高齢者の生活を支えてるかを監査できる権利を有する
という、目から鱗というか、ちょっとやりきれない法律が閣議決定された。
保険料未納対策の一環として、特に納付率の低い若年世代の不満の矛先をかわすのが狙いらしい。
若者は口々に言う・・・「なして、俺らが年寄りのために給料の【7割】も社会保険さ、とられちまうのだ!!」と。
こんな憤りに、紐づいている人(保険料負担者)の過半数が賛同すると強制的に保険料は減額されてしまうという。
いやはや、それは辛いっす。

一方で、生活保護受給者においても同様で、個々の負担がどう配分されて、どんな人達の生活を保障しているのか
やはり監視して知る権利を有する、という、まぁなんてお先真っ暗で世知辛い制度なのだろうか。
ちなみに監視の結果、
「働こうと思いさえすれば全然働けるこの人の保障を、なして俺らが負担するのさ!」
という憤りに、紐づいている人(納税者)の過半数が賛同すると強制的に保障はなくなってしまう

という、ああ・・・・恐ろしい監視社会だ。

室井はふと決心する。
「ふぅむ・・・市長ごときじゃダメか・・・国政にうってでねーとこんな世知辛い社会は変えられないもんね。」と。

というわけで新たな進路は数時間後には更新され、そういうことで納得した。

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驚異の回収率!
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「させー!!!」「させー!!!」
芦毛のメンコイインパクトが大外を回して豪快に差し切ったその瞬間、幸子は激しくガッツポーズを決めた。
「っしゃーーー!!!」
やや固い決着の馬券だったとは言え、大本命で70万あまりの払い戻しを受け取った。
「ふぅ・・・今日も茶餓(てぃが)は期待に応えてくれた。OK。いいぞ!茶餓!!」

幸子は無類の馬券好きである。回収率は趣味の域を超えており、室井の年収を遥かに上回っている。
平均アベレージで資本回転は6000%とからしいから、すげー。

幼少の頃、祖母がよく話してくれた。
「昔、室蘭に競馬場があったのさ。で、私の父は馬主でさ。
持ち馬にフタバヤマってとんでもなく強いのが一頭いて69連勝もしたのさ・・・・」
そんな時の祖母はいつも遠い目をしていた。

幸子もそんな血を引いたのか、無類の馬券好きである。
ちなみに夫の三郎も幸子のそんな趣味のことは知っている。
が、室蘭へ転勤してきて以降、死ぬほど忙しく、やっと一段落した矢先に大黒島へ島流し。
データセンターの世話人仕事は、月に一日の帰宅しか許されておらず(幽閉か)
幸子に逃げられるくらいなら好きな馬券でも何でもやってもうらおうと思って、何も咎めたりはしない。

現在の北海道の知事は、堂垣外(どうがきがい)という。
現在二期目のこの知事は「愛溢れる北海道。自然とギャンブルの共生。」を掲げ支持率は常に85%を超える。

この知事の施策の一つが道内各地の競馬場の復活だった。
室蘭、函館、帯広、旭川、釧路、遠軽、稚内、etc・・・・
今では全道に20の競馬場と、公営カジノも4つを数える。

室蘭でも競馬場の他、ドッグレースとオートレースとパチンコ屋が、工場群を取り囲むようにひしめいている。
「稼いだらさっさとパーっと使いましょう!」とは、経済浮揚を企むこの知事の持論である。

幸子は明日のレースの新聞を買って、場内の屋台でおでんと串カツをつまみにYEBISUできゅっと祝杯だ。
「ああ、明日は中央との交流レースね。」
レースの冠は「フタバヤマ記念」。賞金のスポンサーには幸子の実家である”蜂山”が協賛している。
見ようと思えば馬主席にも入れる幸子だが、そういうことは絶対にしない。
「競馬は打つもんであって、馬をもつなんて興味なし!」が持論だ。

明日の「フタバヤマ記念」の馬柱に、ぐりぐりの二重丸が付されているのは中央の大将格
コンパクトコンタクトインパクト
である。(馬名の9文字制限は国際化に反するとのことで撤廃されている)

「一本被りね・・・・」
直線が200mの室蘭競馬場で、あの脚が活きるのか?

茶餓は全国すべての地方競馬を通じて、3年連続でリーディングを取得している天才ジョッキーである。
3人兄弟の長男であり、父は映画脚本家。末の弟は世界を放浪中で今はブラジルあたりのはずだった。
室蘭には中学の頃、転校してきて、以来ずっと室蘭で暮らす。
母校の輪恋水中学には毎月乗馬を教えに顔を出している。
中央からのランセンス発給を度々うけながらも断り続け「生涯一地方ジョッキー」を貫いている。
「茶餓はどう乗るかしら・・・イタンキノカガヤキに」
明日の「フタバヤマ記念」で茶餓が騎乗するのはその名もイタンキノカガヤキ。現在4連勝中の上がり馬だ。
ダート・芝兼用で・・・・室蘭競馬場は函館、札幌に次ぎ芝もある競馬場・・・・先行も苦にしない。
柔軟なバランスと、並んでからの闘志が、何より優れたサラブレッドの証だ。

「茶餓とイタンキなら何とかしてくれそう・・・複勝を50万とコンパクトのワイドを50万ってところかしら」
幸子の勝負師としての目が輝いた。
(データセンターで濁った眼をしている亭主とは雲泥の差ですね)

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来年は男子ツアー・・・!?
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月清食品オープンの最終日。
6イーグル、6ダボのパープレーでおしくも下子は6位タイフィニッシュにとどまった。
「うう・・・」
「ショットは好調だったけどアプローチがイケてなかったな。けっ」

ドライビングディスタンスは軽く320ヤードを超え、っておいおいおい。
米PGAだってそうそうお目にかからんぞ的な飛距離を誇る。
持ち球はパワーフェイドで一瞬左に向かうと見せかけてぐぐぐぐっと右に戻るあの「曲り」が心地よかった。

この春、国内デビューして既に2勝。賞金ランキングは韓国のアンポンジョンと激しく首位を競り合っていた。

早い話がプロライセンスは金で買った。
ライセンス発給元の両協会のおえらどころは何れもパンドラプラスの取引先企業の顧問や会長職であり、
そして、政府の諮問機関である「未来ITいる?いらない?審議会」のメンバー同士でもあり既に知り合いでもあった。
仕事を複雑に循環させ、それら顧問企業に発注し、おえらどころさんどもは大喜び。
大人って汚ねぇ!

造作も無く発給されたライセンスに一瞬批難の声が上がりかけたが、公的なマスコミについては予め手をまわしてあった
(この辺は、すべて渡辺の役どころね?)
ウェブでわいわいがやがや言われるのも全然平気。
所詮、批難ですらいつしか最終的には「愛あふれる・・・」に感染することになり
皆、下子を愛さざるを得ないという、もうまったくもって手のつけられない、ほとほと困った女だぜ。
でへへへ

来年は海外にうってでる。
パンドラプラスをここまでにした、とは言え、下子はまだ43歳でしかない。
一見、見る人が見れば年増にも見えるだろうが、見る人が見れば女優の松島田菜々絵にも見える。

それにしても・・・・思う。
パンドラプラス創業23年。アパートの片隅の部屋からのスタートアップだった。
今では従業員80名を数え(えー!たったの?)
/**だから役員クラスで課長級という蝦安のような(かつての室井のような)社員ばかりなわけです**/

ただし、契約社員、協力会社諸々、この企業の稼ぎで生計を立てている関係者は7万人を超える大企業である。
そして、何よりの驚愕は「非上場」であることだ(すげー!)。
株式の99%を保有する下子、1%は渡辺に持たせている。
企業の実態もろくに知らない連中が「金のなる木」くらいにしか株式を動かさない、そんな価値感が嫌いだった。
作ったのも私、だから潰す時も私一人が決めるの・・・
代表をおりた下子だが、その決意は今も変らない。
年間売上高3兆円を超える企業を育て上げた女の固い決意である。

来年は海外にうってでる。
それもただ海外、ではない。挑む先は男子ツアーだ。
待ってろ!マッキャローイ、ドニャルド、チーター・ウッズ。

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超暗黒国が襲来はどうなった!?
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パラポロプニペパ社の経営陣が債務超過と詐欺ペテンで超暗黒国当局に拘束されたのは、わずか数日後だった。
(おいおい・・・)

ううむ・・・・渡辺は眉間にしわを寄せて唸った。
「ったく、かったりー野郎どもだ、何なんだこいつらは。」
しかし、気を緩めることはできない。次はどんな言い掛かりをふっかけてくるかも予想がつかない。

それより気懸りは、渡兄弟の不穏な動きだ。
彼らが超暗黒国の企業と連絡を取り合っているらしいとは内偵からの報告である。
ったく。どいつもこいつも。
「だいたい、あの室井ってのは何だってあんなバカな部下に酒飲ませたんだよ!」
と少々の憤りもあるが、そろそろ「幽閉」から解除するべきか。
渡兄弟の尻尾をつかませるのだ。

「社長・・・うるとら様が面会におこしです。」
「うるとら?」
「はい。うるとら墮否(だいな)様が、社長にお約束があると・・・」
「ああ、墮否か。。。。。わかった。通してくれ。」
そう言って電話を置くと、渡辺は社長室から臨む風景に視線を移した。

視界に入ったその世界は混とんとしていた。

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