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第十弐話 【まだまだずっと混沌・・・】

11月 6th, 2014 Posted in 題名の無い連載小説 Tags:

グリーンジャケットに袖を通すのはこの私。
最終日のアーメンコーナーを迎え、首位マッキャローイとは3打差3位T。
1打差2位にはチーター・ウッズ。全盛を過ぎたとは言えオーガスタの申し子はまだ伸ばしてくる。
でもしかし。しかし山登下子は確信していた。勝つ。私は絶対に勝つ。
11番ホワイト・ドッグウッドのティーグラウンドに立った下子の表情には余裕の笑みすら浮かんでいた。
「勝者が羽織るあのグリーンジャケットだって、わざわざ女性用に右前合わせで発注させてるんだから。」

室井三郎。パンドラプラス建設工業へ移動を命じられ早2年。
良くも悪くも変り映えのない日々を送っている。
朝7時出社、夜22時退社。土日もほとんど出社してる。
24時間営業を売りにしてる牛丼屋ですら深夜営業を中止してるこのご時世に、よくもまぁ。。。
大黒島でのデータセンター管理人の頃を思えば、深夜であっても毎日帰宅できることに感謝すらできる。
そんな彼の救いは少ない休日の写真撮影のための町歩きとその整理。
そして、仕事にも趣味のカメラにもまったく無関心な妻の幸子が元気でいてくれることだった。
馬券も好調らしく税務対策にも余念がない。違う意味で三郎よりはるかに忙しそうでもある。

「そういえばボクちゃんがあなたと一度話しがしたいって。」
「え?」
「ボクちゃんよ、私の大嫌いなあのバカ従兄弟。一瞬だけ何ちゃって総理だったあの蜂山雨季夫。」
蜂山雨季夫。元一国の首相だったこの男は妻の幸子の従兄弟にあたる。

「俺になんだって?」
「知らない。」
「ふーん。オレらの結婚式で会ったきりだからもう14~15年か。」
「知らない。」
「・・・。」

「まぁ何だかわからんけど面倒は御免だ。適当に断っといてよ。」
「もう来てるの。」
「え?」
「もう来てるのよ。」
「なにが?だれが?どこに?」
「ボクちゃんの秘書が、ここに、あなたを迎えに。」
「うひょ!」

黒塗りの無駄に大き過ぎる高級車に半ば強制連行されるように三郎は押込まれたのだった。

渡辺は墮否(だいな)の顔を見るなり
「ひっさびさー。」と満面の笑みを浮かべた。
「ご無沙汰してます。」
「茶餓(てぃが)は相変わらず?」
「ええ。こないだG1を200勝目したそうで世界競馬殿堂に表彰されたとか何とか言ってましたが・・・」
「墮(だい)ちゃんも俺も、馬の方はからっきしだもんな。うへへへ。」
世界的天才ジョッキーである粳寅茶餓と渡辺は、中学時代に一瞬だけ同窓だった。それ以来の縁である。

「さて、昔話はまたゆっくりね。今日来てもらったのは仕事。」
「・・・。」
「一部で報道されてるけどうちが外食に進出するのは知ってる?」
「ええ、何となく。」
「そっちはうちの営業のボスが勝手にやることだからどうでもいい。
お願いしたいのは行政筋の話で、とある町で再興モデルを検証したい。
よくある町おこしでも、ゆるキャラ作りでもなく、企業集積型の復活モデルだ。」
「ほぉ。でも私はしがない中小企業の支援ばかりでそんな大それたのは・・・。」
「いや、それが適任だ。さらに墮(だい)ちゃんのポテンシャルをオレは誰よりわかってるつもりだから。」
「いいっすよ、買い被らんで。ってか具体的には・・・」
「うん。室蘭って町の。。。まぁつまり墮ちゃんの兄貴のホームグラウンドのあの室蘭で食品関係から掘り起こしたい。」
「むろらん!?室蘭っすか。あいやぁー。」
「じゃよろしく。」

チャーリーが害吾の伝言を三郎に伝えてからもう2年半。何の音沙汰もない。
風の噂では既に大黒島にもいないというではないか。おいおい。
ウェストりんがストゼリアはこの大黒島の親会社パンドラプラスが買収し、
そもそもラーメン屋の道もへったくれもない。
船の清掃アルバイトもいい加減飽きてしまい、今は地元の老舗ラーメン店「なか王」西口店でバイト。
夜は夜で中嶋の老舗パブ「ブラックハウス」でバーテンもしている。
しかしながら生活には困ってない。
ブラジルで二郎と別れる際に「弟に土産物でも買ってってくれ。」と手渡されたキャッシュカードには
今でも毎月30万ドル入金され続けている。
「あーあ。なんなんすか。こりゃ一体。」
害吾が一人ごちる。

そんな害吾の日課は毎朝地球岬まで観光道路を走ることだ。
(某国営放送の室蘭支局の裏側に暮らしてるらしいです)
坂を上りきるラスト1キロは肺がはち切れんばかりの猛ダッシュをし、白い息を吐き続ける。
そして一息ついて灯台から見下ろす景色に心を洗う。そんなことを繰り返す毎日だ。
時折、坂路調教の一環か!?と蹄の音を響かせ観光道路を走るサラブレッドにすれ違う。
その馬上には長兄の茶餓が。

「あぶねーって。こんな狭い道で調教すんなって。」
いくら言っても茶餓は「そう?」と軽く受け流すだけだ。
そう言えば先日会った際は
「今度、墮否が室蘭に来るって。仕事らしいけど。その際久しぶりに三人で飯でも食おうや。」
なんて言ってたけれどあれはどうなったのだ?

一気に深まる鉛色の空を眺め
「あーあ。なんなんすか。こりゃ一体。」
今日も害吾は一人ごちる。

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